出生率0.7の衝撃 — このままだと日本の人口は何人になるのか、ガチで計算してみた

はじめに — 数字が突きつける人口の未来

2024年、日本の合計特殊出生率は過去最低の1.20を記録した。韓国は0.72、台湾は0.87と、東アジア全体が「超少子化」の波に飲まれている。出生率0.7時代——この数字は何を意味し、社会にどのようなインパクトを与えるのか。本記事では、人口統計データを多角的に分析し、少子化の構造的要因と、そこにわずかに残された希望の光を探る。

合計特殊出生率の推移 — 日本の60年

日本の出生率の歴史を振り返ると、劇的な変化の軌跡が見える。1947年の第一次ベビーブーム期には4.54を記録し、その後急速に低下。1960年代に2.0前後で安定したが、1975年に2.0を割り込み、以降は低下の一途をたどった。

「1.57ショック」と呼ばれた1989年が一つの転機だった。丙午(ひのえうま)の1966年の出生率1.58を下回ったことで、少子化が社会問題として認識され始めた。しかし、その後も対策の実効性は乏しく、2005年に1.26という当時の過去最低を記録。その後やや回復し、2015年に1.45まで持ち直したが、2016年以降は再び低下に転じた。

2020年の1.33、2021年の1.30、2022年の1.26、2023年の1.20、そして2024年も1.20前後。下落のトレンドは加速こそすれ、反転の兆しは見えない。

出生数の推移 — 80万人割れの衝撃

出生率とともに注目すべきは、出生数の実数である。2022年に初めて80万人を割り込み、2023年は約75.9万人、2024年は約72万人と推計されている。これは、第一次ベビーブーム期の約270万人の4分の1に過ぎない。

国立社会保障・人口問題研究所の「日本の将来推計人口(2023年推計)」の出生中位推計では、2040年に約66万人、2060年に約50万人、2070年に約45万人と予測されている。しかし、直近の実績は中位推計よりも速いペースで減少しており、低位推計に近い軌道を描いている。

東アジアの少子化比較 — 韓国0.72の衝撃

日本の少子化は深刻だが、東アジア全体で見ると、さらに厳しい現実がある。

韓国: 世界最低の出生率

韓国の合計特殊出生率は2023年に0.72を記録し、2024年はさらに低下して0.68前後と推計されている。OECD加盟国の中でも突出して低い。ソウル特別市に限ると0.55という衝撃的な数字だ。背景には、極度の住宅価格高騰、熾烈な教育競争、長時間労働、ジェンダー問題など複合的な要因がある。

台湾: 0.87の現実

台湾の出生率も0.87と、日本を大きく下回る。高い住宅価格と、若年層の将来不安が主因とされる。2024年の出生数は約13.5万人で、2000年の約30万人から半減以下となった。

中国: 人口減少時代への突入

中国は2022年に61年ぶりの人口減少に転じた。2023年の出生率は約1.0と推計されており、2024年はさらに低下したとみられる。一人っ子政策の廃止(2016年)や3人目の容認(2021年)にもかかわらず、出生数は回復していない。14億人の中国で出生率が1.0を割り込めば、その人口動態上のインパクトは計り知れない。

少子化の構造的要因 — なぜ子どもを持たないのか

少子化の要因は単一ではなく、複数の構造的問題が複雑に絡み合っている。

経済的要因

国立社会保障・人口問題研究所の「出生動向基本調査」によると、理想の子ども数を持たない理由として最も多いのは「子育てや教育にお金がかかりすぎる」(52.6%)である。子ども一人あたりの養育費は、大学卒業までに約2,000〜3,000万円と試算されており、実質賃金の低下と相まって、経済的なハードルは年々高まっている。

特に深刻なのは住宅コストである。東京都区部で家族向けの2LDK以上の賃貸物件を借りる場合、月額15万円以上が標準的。持ち家の場合も、マンション価格の高騰(東京23区の新築マンション平均価格は1億円を突破)により、若い世代にとって住宅取得のハードルは極めて高い。

社会的要因

婚姻数の減少が出生率低下の最大の要因である。2023年の婚姻数は約49万組で、ピーク時(1972年の約110万組)の半分以下。生涯未婚率(50歳時点での未婚率)は、男性で28.3%、女性で17.8%に達している。

非婚化の背景には、経済的不安定さ(非正規雇用の増加)、出会いの場の減少、結婚に対する価値観の変化など、多様な要因がある。特に注目すべきは、男性の年収と婚姻率の強い相関だ。年収300万円未満の男性の既婚率は約1割にとどまる一方、年収500万円以上では約6割に達する。

働き方・ジェンダー要因

日本の女性の労働力率は上昇を続け、M字カーブはほぼ解消された。しかし、「男性は仕事、女性は家庭」という性別役割分担意識は根強く残っており、家事・育児の負担は依然として女性に偏っている。男性の育児休業取得率は2023年度で30%を超えたが、取得日数は短く(平均46日)、実質的な育児参加にはつながっていないケースも多い。

この「ダブルバインド」——仕事も育児も求められるが、どちらも十分なサポートがない——が、特に女性の出産意欲を低下させている。

出生率0.7時代に何が起きるか — シミュレーション

仮に日本の出生率が韓国並みの0.7まで低下した場合、何が起きるのか。簡易シミュレーションを行う。

人口推移

2024年時点の日本の人口は約1億2,400万人。出生率が0.7で推移し、移民の大幅な増加がないと仮定すると、2050年に約9,500万人、2070年に約7,000万人、2100年に約4,000万人まで減少する。現在の中位推計(2100年に約6,300万人)よりもはるかに厳しい数字だ。

社会保障への影響

現在の社会保障制度は、現役世代が高齢者を支える「賦課方式」を基本としている。2024年時点で高齢者1人を現役世代約2人で支えている構造(「騎馬戦型」)が、2040年には1.5人で1人(「肩車型」)に移行すると予測されている。出生率0.7が続けば、この「肩車型」への移行はさらに加速する。

年金の所得代替率(現役時代の収入に対する年金額の割合)は現在約60%だが、マクロ経済スライドの適用により、将来的には50%を割り込む可能性がある。医療費・介護費の膨張と合わせて、社会保障費の対GDP比は現在の約24%から2040年には30%を超える見込みだ。

経済成長への影響

労働力人口の減少は、潜在GDP成長率を直接的に押し下げる。内閣府の試算では、労働参加率の改善とTFP(全要素生産性)の向上が進んでも、人口減少の影響を完全に相殺するのは困難とされている。出生率0.7シナリオでは、2040年代にGDP成長率がマイナスに転じるリスクがある。

希望はあるか — 出生率回復の成功事例

絶望的なデータが続いたが、世界には出生率を回復させた事例がある。

フランス: 1.66から2.0への回復(その後低下)

フランスは1990年代に出生率が1.66まで低下したが、手厚い家族支援政策により2010年に2.03まで回復した。N分N乗方式の税制、3歳未満児の保育サービスの充実、事実婚カップルへの法的保護(PACS)、育児休業制度の充実などが功を奏した。ただし、2023年には1.68まで再低下しており、「フランスモデル」の持続性にも疑問が呈されている。

スウェーデン: 1.5から1.9への回復

スウェーデンは、男女平等政策と手厚い育児支援を組み合わせたモデルで知られる。480日間の有給育児休暇(そのうち90日は父親に割り当て)、所得比例の育児給付金、低廉な保育サービスなどにより、出生率を1.5から1.9程度まで引き上げた実績がある。

ハンガリー: 政策的介入の効果

ハンガリーのオルバン政権は、家族政策にGDPの5%以上を投じるという大胆な施策を展開。4人以上の子どもを持つ母親の所得税免除、住宅ローン補助、出産奨励金などにより、出生率を1.23(2011年)から1.56(2021年)まで引き上げた。

日本への示唆 — 何をすべきか

成功事例から得られる示唆は以下の通りだ。

  • GDP比での家族関連支出の大幅増加: 日本の家族関連支出はGDP比約2%で、フランスの約3.6%、スウェーデンの約3.4%を大きく下回る。「異次元の少子化対策」を掲げるなら、GDP比3%以上への引き上げが必要
  • 男性の育児参加の実質化: 育休取得率の数字だけでなく、取得日数と質の改善が不可欠
  • 住宅政策の抜本改革: 若年世帯向けの公的住宅供給、家賃補助の拡充
  • 多様な家族形態の法的保護: 事実婚、シングルマザー/ファーザーへの支援強化
  • 若年層の経済基盤の安定化: 非正規雇用の処遇改善、奨学金返済負担の軽減

移民政策という「もう一つの選択肢」

出生率の回復だけで人口減少を食い止めることは現実的に困難であり、移民政策も重要な選択肢となる。2023年時点で日本の在留外国人は約340万人(総人口の約2.7%)。ドイツ(約15%)やアメリカ(約14%)と比べると依然として低い水準だ。

2024年から始まった「育成就労制度」(旧・技能実習制度の後継)は、外国人労働者の受け入れ拡大に向けた一歩だが、待遇改善や社会統合の課題は山積している。人口減少を移民で補うとすれば、年間数十万人規模の受け入れが必要であり、社会的な合意形成を含めた包括的な議論が求められる。

まとめ — データは冷酷だが、未来は変えられる

少子化データは確かに「絶望的」に見える。しかし、フランスやスウェーデンの事例が示すように、適切な政策介入によって出生率を回復させることは不可能ではない。問題は、日本がそのための政治的意志と財源を確保できるかどうかだ。

「静かなる有事」と呼ばれる少子化問題。データが示す未来は暗いが、データに基づいた政策を実行すれば、軌道修正の可能性は残されている。次回は、GDP統計の問題点に焦点を当て、日本経済の「見かけ」と「実態」の乖離を分析する。